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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(行ツ)17号 判決 1987年11月20日

上告人 東京アンテイーク・アームズ株式会社

被上告人 東京都教育委員会

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安倍正三、同安倍治夫の上告理由第一点、第二点及び第五点ないし第一一点について

銃砲刀剣類所持等取締法(以下「法」という。)一四条一項の規定による登録を受けた古式銃砲(変装銃砲刀剣類を除く。)が、法三条一項六号により銃砲、刀剣類の同条本文による所持禁止の除外対象とされているのは、銃砲は幾多の変遷を経て進歩発達して来たのであり、さまざまな種類、構造のものが存在するが、特に、天文一二年(一五四三年)に我が国に火縄銃が伝来して以来、幕末から明治維新にかけての戦乱が終結したころまでに我が国に存在し、合戦に用いられるなどした古い型の銃砲には、我が国の歴史、特に合戦史、銃砲史における貴重な資料であつて、美術品又は骨とう品として文化財的価値を有するものがあるから、これらの銃砲について登録の途を開くことによつて所持を許し、これらを文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみて有益であり、また、これらの古い型の銃砲はその所持を許しても危害の予防上重大な支障が生ずるものではないとの趣旨によるものと解される。このことは、法四条による銃砲、刀剣類の所持の許可の場合は、危害予防の観点から、これを所持する者が法五条一項各号に該当しない者でなければ許可を受けることができないものとされているのに対し、法一四条一項による登録の場合は、登録を受けようとする者について右のような定めはなく、当該銃砲それ自体が同項所定の「美術品若しくは骨とう品として価置(編注・価値の誤りか)のある火なわ式銃砲等の古式銃砲」に該当すると認められるときは、その登録を受けることができ、登録を受ければ何人もこれを所持できるものとされており、しかもその登録事務は文化庁長官が所掌していることに照らしても明らかである。

そして、このような古式銃砲の登録の手続に関しては、法一四条三項が「第一項の登録は登録審査委員の鑑定に基いてしなければならない。」と定めるほか、同条五項が「第一項の登録の方法、第三項の登録審査委員の任命及び職務、同項の鑑定の基準及び手続その他登録に関し必要な細目は文部省令で定める。」としており、これらの規定を受けて銃砲刀剣類登録規則(昭和三三年文化財保護委員会規則第一号、なお、右規則は、昭和四三年法律第九九号附則五項により、文部省令としての効力を有するものとされている。以下「規則」という。)が制定されている。その趣旨は、どのような古式銃砲を我が国において文化財的価値を有するものとして登録の対象とするのが相当であるかの判断には、専門的技術的な検討を必要とすることから、登録に際しては、専門的知識経験を有する登録審査委員の鑑定に基づくことを要するものとするとともに、その鑑定の基準を設定すること自体も専門的技術的な領域に属するものとしてこれを規則に委任したものというべきであり、したがつて、規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門的技術的な観点からの一定の裁量権が認められているものと解するのが相当である。

そして、規則に定められた古式銃砲の鑑定の基準をみるに、規則四条一項は、「火なわ式銃砲等の古式銃砲の鑑定は、日本製銃砲にあつてはおおむね慶応三年以前に製造されたもの、外国製銃砲にあつてはおおむね同年以前に我が国に伝来したものであつて、次の各号の一に該当するものであるか否かについて行うものとする。」とした上、同項一号に「火なわ式、火打ち石式、管打ち式、紙薬包式又はピン打ち式(かに目式)の銃砲で、形状、象嵌、彫物等に美しさが認められるもの又は資料として価値のあるもの」を、同項二号に「前号に掲げるものに準ずる銃砲で骨とう品として価値のあるもの」をそれぞれ掲げており、これによると、右鑑定の基準には、日本製の古式銃砲については製造時期を、外国製の古式銃砲については伝来時期をいずれも「おおむね慶応三年以前」とする旨の要件が定められていることが明らかである。

そこで、右の要件が法の委任の趣旨を逸脱したものであるか否かをみるに、一般に、古式銃砲の製造時期ないし伝来時期のいかんは、我が国の歴史、特に合戦史、銃砲史との関連において、歴史的観点からするその文化財的価値を左右する事項であることは否定できないところ、古式銃砲の我が国における文化財的価値に着目してその登録の途を開いている前記法の趣旨を勘案すると、いかなる古式銃砲が美術品又は骨とう品として価値があり、その登録を認めるべきかを決する場合にも、その古式銃砲が我が国において有する歴史的観点からの文化財的価値に対する考慮を欠かすことはできないのであり、したがつて、前述のように規則が古式銃砲の鑑定の基準としてその製造時期ないし伝来時期に関する要件を規定していること自体を目して、直ちに合理性を欠き法の委任の趣旨を逸脱するものということはできない。そして、原審の適法に確定するところによると、(一) 火縄式銃砲以外の古式銃砲が我が国に伝来したのは、幕末の動乱期であり、国内においてもこれらの外国製銃砲に改良を加えた古式銃砲の製造がされ、幕末から明治維新にかけての合戦等に使用されたが、明治二年に戊辰の役最後の箱館五稜郭の戦いが終結した後は、新たに古式銃砲が輸入されることはなくなつた、(二) 明治五年三月八日付け太政官布告「銃砲取締規則」により民間所有の銃器の調査、登録が行われ、その際、登録銃器にはいわゆる壬申刻印が打刻されたが、その当時存在した古式銃砲はおおむね慶応三年以前に製造されたか又は伝来したものと推認されるから、右壬申刻印の有無により、少なくとも民間所有の古式銃砲については、その製造時期ないし伝来時期の識別が容易である、(三) 我が国の銃砲史上においては、現代式銃砲と区別しての古式銃砲とは、その点火機構において、指火式から火縄式、火打ち石式、管打ち式、弾薬筒式の中のピン打ち式、紙薬包式に至るまでのもの、年代でいえば、おおむね慶応三年(一八六七年)以前の考案になる銃砲をいい、明治元年以後の考案になるものを現代式銃砲とするのが最も常識的な考え方である、というのであり、これらの認定事実に照らすと、規則が文化財的価値のある古式銃砲の鑑定基準として、前記のとおりその製造時期ないし伝来時期を「おおむね慶応三年以前」と定め、この基準に合致するもののみを我が国において前記の価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、法一四条一項の趣旨にそう合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもつて法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない。そうすると、上告人の登録申請に係る本件短銃が一八七八年(明治一一年)以降に製造されたものであり、かつ、昭和五二年一二月ころ上告人が輸入した外国製ピン打ち式銃であることは、原審の適法に確定するところであるから、本件短銃は規則四条一項所定の鑑定の基準に照らして、登録の対象となる古式銃砲に該当しないことが明らかである。以上と同旨の見解に立つて、上告人の右登録申請を却下した被上告人の本件処分に違法はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、その実質は原判決の単なる法令違背をいうものにすぎず、原判決に法令違背のないことは右に述べたとおりである。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するか、又は判決の結論に影響を及ぼさない点をとらえて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第四点について

原判決が加除訂正のために引用した第一審判決の頁数の記載に誤りがあつたことは、所論の指摘するとおりであるが、右誤りは昭和五九年一月一九日付け更正決定により訂正されており、これによると原判決に所論の違法は認められず、結局、論旨は失当である。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 島谷六郎 牧圭次 藤島昭 香川保一 奥野久之)

上告理由 <略>

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